性病(STD)の感染経路を知って予防対策

再流行の兆しがある梅毒の皮膚症状と治療について

梅毒はセックスあるいはオーラルセックスなどの類似行為によって「梅毒トレポネーマ」に感染することで発症する性病です。厚生労働省の定めるところにより、梅毒の初診患者を診断した医師は7日以内に保健所を介して都道府県知事に届け出る義務があります。

2016年の報告数も過去最高ペース

性病としての歴史が古い梅毒は、ペニシリン等の抗生物質の開発によって患者数は激減して「過去の病気」となったのですが、日本では2010年から感染者が増加傾向に転じており、2015年は過去最高の患者数が報告されており、国立感染症研究所のデータによると過去3年で約2.3倍も増加しています。

国内の梅毒の主な感染経路は、皮膚粘膜が傷つきやすい肛門を使った「アナルセックス」を行う頻度の高い男性同性愛者のセックスでしたが、近年は異性間での感染が拡大しており、他人事ではなくなってきました。特に20代の若い女性の発症例が増えています。

梅毒は皮膚や粘膜のわずかな傷口から「梅毒トレポネーマ」が侵入し、血流によって全身に運ばれることによりさまざまな症状が現れます。臨床症状はないものの、血液検査で陽性を示す無症候性の梅毒も存在するため、本人が感染を知らないままパートナー等へ病気を移している可能性があります。そのほか胎児が母体内で胎盤を通じて感染する先天性梅毒、主に輸血を媒介とした感染などもありますが、検査体制が整った日本ではこれらの感染リスクはほぼゼロです。

梅毒トレポネーマに感染すると時期によって出現する症状は全く異なります。臨床的には以下のように第1期から第4期に分類されています。

第1期梅毒
感染後3週間~3か月の期間を指しており、梅毒トレポネーマが侵入した部位に豆粒サイズの硬いしこりができ、やがて潰れて潰瘍ができます。オーラルセックスによって口唇に梅毒トレポネーマが侵入し、口唇にしこりができることもあります。しこり自体は痛みなどの症状はなく、放置していても自然に消滅するため、見逃したり、放置してしまうことも少なくありません。

第2期梅毒
感染後3か月~3年くらまでの期間を指しており、この時期になると血流で全身に運ばれた梅毒トレポネーマによって、さまざまな皮膚・粘膜症状が現れます。全身のリンパ節が腫れるほか、発熱、倦怠感、関節痛などの症状がみられます。この時期の特徴的な症状として、顔・首・胸・腹などにバラの花びらのような赤い発疹(バラ疹)が現れるとされていますが、欧米に比べて日本人にバラ疹がみられる頻度はそれほど高くありません。

そのほか掌・足底にボロボロと剥がれ落ちる浸潤性の紅斑、乾癬などができたり、口腔内がただれて、潰瘍を形成したり、肛門や陰嚢、陰唇などの擦過部位に丘疹(皮膚面から隆起する発疹)ができたり、頭部の脱毛が見られるなどの多彩な症状がみられます。

第3、4期梅毒
感染してから3年以上経過したものです。梅毒により心血管系、中枢神経系が侵され、心筋炎、大動脈円、大動脈瘤などの症状が現れます。日本国内では第2期までに発見・治療が行われるケースが大半ですので、この段階にまで悪化する人はまずいません。

梅毒の治療はペニシリン剤を投与します。開発から半世紀以上だった現在も効力は衰えておらず、耐性菌が出現したという報告もありません。またペニシリン剤は妊娠時も使用できることから、治療の第一選択地役となっています。具体的には、ベンジルペニシリンベンザチン(バイシリンG)、ぺにリシンアレルギー患者にはミノサイクリン塩酸塩(ミノマイシン)、妊婦にはスピラマイシン酢酸エステル(アセチルスピラマイシン)をそれぞれ内服投与します。